研修成果を学校や地域へ還元/311被災地視察研修の参加者から活動報告/避難訓練やマニュアルの見直しも

宮城教育大学防災教育研修機構(通称・311いのちを守る教育研修機構)が実施する311被災地視察研修の参加者から、研修成果を生かした活動の報告が次々に寄せられています。学校での児童生徒対象の防災授業、同僚の研修講話、地域住民への講話に研修内容を盛り込んでいるほか、避難訓練やマニュアルの見直し、点検に動いた事例も相次いでいます。

■研修で得たことの共有

公費参加、私費参加にかかわらず、研修参加者のほとんどが地元に帰り、研修内容を共有する取り組みを行っています<以下、一部を抜粋・編集して紹介>。

【2023年3月参加・中学校養護教諭】「ほけんだより」で連載し、保健室の掲示板に東日本大震災視察研修コーナーを設け、研修で知り得たことを伝えた。顧問をする吹奏楽部での活動でも震災テーマの楽曲を練習する際に、研修で聞いた被災者の思いや願いを伝えた。その後、生徒たちが災害時の避難について話しながら帰宅する姿を目にした。

【2023年3月参加・中学校教諭】道徳の授業で教科書は避難所の節度や節制がテーマだったが、「児童生徒こそ災害時の支え合いの力になる」という研修で得た知見を活かし、視察の写真や資料をスライドで紹介しながら、「中学生として何ができるか」を考えさせる内容で進めた。生徒からは「大人に頼るのではなく、自分たちでできることを考えて行動したい」「自分たちにできることは思ったよりたくさんあると分かった」と感想があり、被災地で得た実感が生徒の心に響いたと感じた。

【2023年8月参加・小学校教諭】すべての教職員に研修の報告をし、児童向けには学年ごとに研修の写真や語り部さんの話を伝えた。子どもたちは、車が建物に突き刺さった写真、津波火災の写真を真剣に見て、防災学習に気持ちが入ったようだった。地域の防災マップづくりにも取り組み、地域に配布した。

【2023年8月参加・小学校教諭】被災地で多くの慰霊碑を視察し、碑に込められた思いを知ったことで、校内にある顕彰碑などを大切にする気持ちになり、碑の周りの草取りや清掃をした。研修で立ち寄った石巻市の伝承連携団体「3.11メモリアルネットワーク」が発行する震災伝承漫画「あの時、子どもだった私たちから伝えたいこと」(3巻)を購入し、校内で回覧した。教職員からは「震災時の子どもたちの考えがよく分かった」といった感想が寄せられた。6年担当の同僚教員は、防災の授業で読み聞かせに活用した。

■研修後の視察・講話などの企画

研修に参加した後、あらためて被災地を自主的に視察する、研修の語り部や講師を招くといった企画に動く事例も報告されています。

【2023年3月参加・小学校教頭】校内で研修報告会を開いたところ「実際に被災地を訪れ自分の目で確かめたい」との声があがり、8月に教職員8人による2泊3の視察旅行を実施した。気仙沼向洋高校震災遺構で中高生語り部による案内、石巻市大川小学校震災遺構で佐藤敏郎さんの案内を受け、研修の立ち寄り先をたどって研修成果を確かめ合った。南海トラフ地震の脅威にさらされる中、災害時に行動できる児童の育成に向けた防災教育の充実を校内で再確認し、教員が平時からきちんと意見を言い合える職場づくりの大切さを校長と話し合っている。

【2023年3月参加・高校教諭】ホームルーム活動で研修成果を生徒に報告したところ、生徒からは多くの質問が寄せられ、自主的な話し合いにも取り組んだ。この手応えを生かし、生徒を被災地研修に連れていけないか、企画を立てている。総合的な探求の時間の防災班の取り組みとして「被災地に行って勉強したい」という声が高まり、予算が獲得できるよう実現に向けて努力する。

【2023年3月参加・教育委員会指導主事】毎年8月に実施する学校安全教育研修会に、宮教大研修で視察案内してもらった釜石市鵜住居「いのちをつなぐ未来館」語り部の川崎杏樹さんを招いて、講話してもらった。学校避難の実体験による教訓の呼びかけに、参加者からは「災害を自分事として捉えられた」「今後の防災教育に生かす」と強い決意が聞かれた。

 ☞川崎杏樹さんをはじめ、研修で案内役・講師役を務めた語り部の皆さんを招いた講話は、オンラインも含めてほかにも数件ありました

■研修後の訓練やマニュアルの見直し

研修で得た教訓を持ち帰り、避難場所の追加や訓練の見直し、マニュアルの再検討など具体的な備えにつなげた事例も多く報告されています。

【2020年8月参加・教育委員会指導主事】「避難場所を1か所だけ定めているのは危ない」という研修で触れた事例、語り部さんたちの訴えを持ち帰り、地元自治会の協力で高台にあるJAの空き地を小学校と中学校のもう一つの避難場所として使用させてもらうため、覚書を交わし、整備も進めた。その避難場所で保護者に児童生徒を引き渡すことを前提に、引き渡しのマニュアルも策定した。

【2020年8月参加・中学校教諭】「釜石東中学校での防災活動は楽しかった」という釜石市鵜住居「いのちをつなぐ未来館」語り部の川崎杏樹さんの話を聴いて、津波の速さを実感させるための取り組みに興味を持ち、戻ってから実践してみた。校庭で津波と同じ時速35キロで車を走らせ、生徒たちと競争させ、すぐに追いつかれる速さであることを分からせる、津波を見てから避難しても間に合わないことを体で知ってもらうという取り組みだ。自校での実践では、自らバイクを運転し、同じようにやってみた。生徒の表情は真剣で、津波の速さを体感し、いち早い避難を誓っていた。効果は大きかった。

 ☞津波の速さ体感の取り組みは、ほかにも実践した教員の報告かありました

【2023年8月参加・小学校校長】冊子にしてある危機管理マニュアルが自校に即した内容として不足する部分があったため、研修前に教頭に見直しを指示していた。研修に参加した後、教職員に視察の成果を報告し震災教訓を共有したことで、教頭や防災主任と防災教育・安全教育について話し合う機会が増え、共通認識ができ、見直しの動きが具体化している。避難訓練でも、突発的なけがや余震を想定した訓練を行いたいという自主的な申し出があり、持ち出し物品を確認するといった積極的な姿勢が見られた。

 ☞停電で放送が使えない前提での避難訓練などの工夫も数件寄せられています

【2023年8月参加・高校教諭】避難訓練は一次避難先に避難して終わりだった。研修で得た教訓を生かし、二次避難先も定めて、いざという時は選択して逃げる訓練をするよう提案した。研修後、学校がある地域に津波注意報が何度か出された。最大1メートルの津波が来ると伝えられても、研修前なら「大丈夫だろう」と感じていただろう。注意報が出た時は生徒が学校のいない時間だったが、研修に参加したことで、連絡網を活用して「すぐに海岸部から離れて、高いところに避難して」と呼び掛けた。研修の成果が表れた出来事だった。

■その他

研修は教員の人生観や教育観にも影響を与えているようで、個人的な変化をつづる報告も寄せられました。

【2023年8月参加・小学校教諭】研修での学びを活かし「怖さを伝えるのではなく、楽しく防災を身に着ける」授業に取り組み始めた。児童の意欲は明らかに違った。教育とは関係ない個人的なことだが、後悔をしない生き方をすることの大切さも学んだ。研修前に仲の良かった妹と喧嘩していまい、連絡を取っていなかった。研修後「もし、あした死んでしまったら」と考えると取り返しがつかなくなると思い、すぐに連絡を取り、無事に仲直りできた。これも研修のおかげだと感じている。

(了)